米国籍を離脱する手続きと税金について
日本国籍と米国籍の二重国籍者が日本国籍を選択し、米国籍を正式に放棄する場合には、両国それぞれで必要な手続きを正しく理解し、対応する必要があります。特に米国籍の離脱は、法的・税務的にも影響が大きいため注意が必要です。
【1】米国籍離脱手続きの流れ
■ 日本の「国籍選択届」だけでは米国籍はなくならない
日本で国籍選択届を提出して「日本国籍を選択し、米国籍を放棄する」と表明しても、米国側の国籍は自動的には喪失しません。
米国籍を正式に離脱するには、アメリカ政府に対して個別の「離脱手続き」を行う必要があります。
■ 離脱手続きの場所と予約
- 米国籍の離脱手続きは、米国外にある米国大使館または領事館で行うことが義務付けられています(例:日本国内の在日米国大使館・領事館)。
- 面接は完全予約制です。東京の米国大使館、または札幌・大阪・福岡・那覇などの各領事館に、事前に連絡して予約を取ります。
■ 手続きの主な流れ
- 必要書類の準備
- 米国パスポート
- 米国の出生証明書
- 日本のパスポートや国籍証明
- Form DS-4079(国籍離脱に関する質問票)
- 面接(インタビュー)
- 面接では、本人の意思に基づいた離脱であること、離脱の意味を理解していることを確認されます。
- 離脱は任意かつ不可逆的(取り消し不可)であるため、ここでしっかりと意思確認が行われます。
- 宣誓と署名
- 米国籍を放棄する旨を記載した書類(Form DS-4081)に、面前で署名・宣誓します。
- 手数料の支払い
- 離脱手数料は2,350米ドル(2024年10月現在)
- 手数料は変更される可能性があるため、事前に公式サイトで確認してください。
- 「国籍喪失証明書(CLN)」の受領
- 手続き後、書類はワシントンD.C.の米国務省へ送られ、最終承認に数ヶ月かかる場合があります。
- 承認後、正式な「国籍喪失証明書(Certificate of Loss of Nationality, CLN)」が発行されます。
✅ このCLNは、米国籍の完全な離脱を示す唯一の公式文書であり、税務手続きにも不可欠です。
■ 注意点
- 取り消し不可:一度CLNが発行されると、原則として取り消すことはできません。
- 専門家への相談推奨:法律・税務が関わるため、移民法や国際税務の専門家に相談することが強く推奨されます。
【2】米国籍離脱に伴う税金:出国税(Expatriation Tax)
米国籍を離脱する際には、出国税(Expatriation Tax)の対象になる可能性があります。
これは、米国市民が国籍を放棄する際に、一定の条件に該当すると世界中の資産に課税される仕組みです。
■ 「Covered Expatriate(課税対象離脱者)」とは
次のいずれかに該当する場合、出国税の対象である「Covered Expatriate」と判断されます。該当しない方については、支払い義務が発生していないことを証明します。
支払い義務、特に出国税の対象ではないことを証明するためには、主に米国歳入庁(IRS)のForm 8854 (Initial and Annual Expatriation Statement) という書類を提出することが不可欠です。このフォームは、出国税の対象となるか否かにかかわらず、米国籍を離脱する(または特定の条件を満たす永住権を放棄する)全ての人に提出が義務付けられています。Form 8854を提出しない場合、移民法上は国籍を離脱していても、税法上は離脱したと見なされず、10,000ドルの罰金が科される可能性があります。
離脱日の前日時点で、全世界の純資産が200万ドル(約3億円)以上
純資産とは: 全世界の資産(不動産、株式、銀行預金、退職金口座、信託財産など)の時価総額から、負債(住宅ローン、借金など)を差し引いた金額です。
国籍離脱前5年間の平均年間所得税納付額が、201,000ドル規定額(2024年基準では)を超えている。
過去5年間、すべての連邦税の申告・納付を正しく行っていない。
上記いずれかに該当する場合、米国から「Covered Expatriate」と認定され、出国税の対象となります。
■ 出国税の内容
- みなし譲渡課税(Deemed Sale)
- 離脱日前日に、保有する全世界の資産を「時価で売却した」とみなされ、その含み益に対してキャピタルゲイン課税が行われます。
- 一定の免税枠が設けられており(2024年で約821,000ドル)、その額を超える部分に課税されます。
- 適格繰延報酬プランへの課税
- 401(k)やIRAなどの退職金制度(Deferred Compensation)にも課税される可能性があります。
【3】米国税務上の必要な申告
■ Form 8854 の提出義務
- 国籍離脱者は、IRS(米内国歳入庁)に対して「Form 8854」を提出する義務があります。
- このフォームにより、自身がCovered Expatriateかどうか、出国税の計算結果などを報告します。
■ 最終の確定申告(Final Tax Return)
- 国籍離脱の年には、米国市民としての最終確定申告を提出する必要があります(Form 1040 等)。
■ 過去の申告漏れがある場合
- 米国籍離脱の前に、過去5年間の申告漏れ・納税漏れを解消する必要があります。
- 条件を満たせば、「Streamlined Filing Compliance Procedures」などの救済措置を利用できる場合もあります。